ちょっと昔の仕事の話。雑誌 NAVI

カメラマンになってから今まで、僕の仕事のメインは、人物のポートレイトと言って良いと思う。
とはいうものの、ジャンルを問わず、いろんな仕事をさせてもらった。
2010年ころまで、雑誌の仕事が多かった時は、コラムニストやジャーナリストの方と組んでの仕事も多かった。


この写真は、2009年に自動車雑誌 NAVI に掲載されたもの。
ジャーナリスト矢貫隆さんとの「どうしても言いたい」という連載だった。
普通、雑誌の仕事では、編集者が「次号でこんな特集をやるのでこういう写真を撮って欲しい」というところから始まる。
この連載では、違った。著者矢貫さんから直接電話があり、「次は、⃝⃝の話を書くのでよろしく。」という感じで始まる。
即答で「これをこう撮ります」と答えられることは稀で、たいてい「はい、ちょっと考えてみます」というのが精一杯だった。
そしてほとんどの場合、締め切りまでの時間が2〜3日しかもらえない。
じっと椅子に座って考えることは苦手だ。車に乗って走らせながら考えることが多かった。もちろん、カメラは積んでおく。

お題は、「臓器移植」

羽田空港から
羽田空港で

この回のお題は、「臓器移植・ドナーの人権」少し前に国会を通った改正臓器移植法についての意見だ。
この法案が通るまで、子供の臓器移植は海外でしか受けられなかった。

医療現場で、多くの脳死患者に接し、移植手術に立ち会った経験を持つ矢貫さんならではの視点。臓器を受ける側ではなく、ドナーの脳死判定についてだ。

しかし、写真だ。どうする。

3日以内に手術を撮るのは不可能だ。もし撮らせてもらえるとしても、それ、読者は見たいだろうか?そうとは思えない。

「海外での手術」というキーワードが浮かんでとりあえず空港に行って見た。
飛び立つ飛行機を見ていると、飛行機の腹が見える。「腹→内臓→手術」となんとか結びつきそうな気がする。
けど、撮ってみると当然こうだ。上の写真にしかならない。
我ながらしつこいと思うのだが、切り取り方を変えて見たり、機体の光の反射具合を見たりしながら、数百枚は撮ったと思う。
どうしていいのかわからない時は、経験から、偶然に頼るのも手だと思っている。

これ白黒にして、コントラストつけたら、なんとかなるというのものが撮れた。それが一番上の写真。
これは、矢貫さんも、担当の加藤哲也編集長も喜んでくれた。こちらから言わなくても「飛行機の腹が手術を連想させてくれる」と。

 

 

 

 

1989年に、コラムニスト神足裕司さんの紹介で、初めて、当時編集長だった鈴木正文さん(現在GQ誌編集長)とお会いした時こう言われた。

「うちは、ギャラは安いです。お金のために仕事をするのなら、今清水さんがやっている仕事を増やしていくのが良いと思います。」「でも、NAVI で撮ってもらえるのなら、自分が撮りたいように撮ってください。写真は四角くなくてもいいよ」と。

正直、すごい人に会ってしまったなと思った。
鈴木さんが見ていると思ったら、写真を持っていくのが怖かった。緊張したものだ。

NAVI は、2010年に休刊となった。
でも、そんな素晴らしい人たちと20年にわたって仕事ができたことは、カメラマンとして幸せだった。

見てくれる人が、カメラマンを成長させると思う。
本当に感謝しています。